山葵は捨てるところのない野菜。葉も茎も作業場まで引いた湧き水で丁寧に手洗いをします。従業員は何十年も勤めている人ばかり、いつも笑いが絶えないのだそうです。 早速見せていただいたのが、収穫したての山葵。すりおろすとキメが細かくて粘りがあり、舌にのせるとまずほのかな甘みが先にきて、すぐに爽やかな独特の辛みがスーッと鼻の奥へ抜けてゆきます。わさび漬けに混ぜ込んでも、存在感が弱まらない自慢の山葵です。 その山葵を包み込む酒粕は、新潟「八海山」や「山田錦」の大吟醸をトラックで取り寄せ、冷蔵庫で半年以上寝かせてから使うのだそう。そのこだわりの理由をたずねてみると、 「わさび漬けが嫌いな人のほとんどは、酒粕の変に甘ったるいような匂いが気になるんだと思うんです。上質な酒粕は、本当に良い香り。山葵の辛みを上手に引き出してくれますし、いやな匂いはまったくないんです」とのこと。 ボウルに入れて持ってきてくれた酒粕は、淡いクリーム色でもったりとした質感、ところどころに粒のような固まりも見えて、見るからに「濃いな」と感じます。作業場中に広がる軽やかな甘い香りに思わずうっとり。 手の感覚だけを頼りに酒粕をやわらかく練り、刻んだ山葵の実と葉の塩漬けを混ぜ込んでいきます。酒粕と山葵が馴染むまで冷蔵庫で寝かせれば、わさび漬けが完成! 実だくさんのわさび漬けは、ヘラを逆さにしても落ちないほどしっかりとした重みがあり、わさびの歯ごたえと辛みをストレートに楽しむことができます。 余分な物は一切入らない「いさぎよい」美味しさなのです。